人魚になんて、なれない
「今日は、どうしたんだ? 練習はない日か?」


俺の問いかけに、いいえと首を振る菊池。


「今日はサボりました」


泳ぐことが大好きな菊池が、練習をサボったと言う。


それは……もしかしなくても俺のせいだろうか。


「俺が、お前の『海に入りたくない理由』を聞いたからか?」


「違います」


菊池はきっぱりと言った。


なら、なぜ?


顔に出たのだろう。菊池は俺の疑問に答えてくれた。


「今日は……波糸の命日だから。朝からお墓参りに行ってきました」


……ああ、また俺は余計なことを聞いた。


「すまん。昨日から、いらんことを聞いてるな、俺は」


こうなったら素直に謝るしかない。


深々と頭を下げると、先生、と呼ばれた。


顔を上げると、少し困ったような顔で、菊池が笑っていた。



「気にしなくていいっていったでしょう? もう三年も前のことなんだからって。今日はあたし、先生の話を聞きに来たんです。先生、話してくれるんでしょ? ……先生が、海の絵を描く理由」
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