人魚になんて、なれない
待てど暮らせど上がってこないから慌てて飛び込んだ、と言う先生。


Tシャツを脱ごうとしているけれど、これ以上ないほど濡れているので苦戦してる。


……ふうん、結構いい体してるんだ。


へえ……ちゃんと胸筋ついてるじゃない。


美術教師ってひょろっとしてるイメージだけど、そうでもないんだ。


あたしの視線に気付いたのか、先生は見せ付けるように胸を張った。


「なんだよ。さては俺の体に見惚れてるな?」


なかなか目がいいな、キミは!


胡坐かいてる足は長そうだし、均整が取れて引き締まった体だとは思う。


あたしもじろじろ見たことは認めよう。


でも、女子生徒にそんなこと言っていいの?


あたしが白い目で見ていると、先生はばつが悪かったのか咳払いをしてごまかした。


「ほかの部員は? まだ来てないのか?」


ああ、やっぱり来るのね、その質問。


答えたく、ないんだけどなあ……。


嘘をついてもどうせばれるし、仕方ないか。
< 5 / 53 >

この作品をシェア

pagetop