人魚になんて、なれない
「ああ、一番にお前に見せるよ。その約束に、あの絵、お前にやる」


「ええ?!」


驚く波音を面白そうに見ながら、海音は続けた。


「お前がいつもプールで見ている世界には到底及ばないだろうがな。俺がいつか描く『青』の絵と比べるためにも持っていてほしいんだけど、だめか?」


「だめなんてことはないんですけど、……絵のことなんて何も分からないあたしが貰うなんて」


「じゃあ、弁当の礼ってことで」


「お礼は絵を見せてもらうことだったじゃないですか!」


「昨日も持ってきてくれただろ。それの礼だよ。はい、この話はもう終わり。この件に関して苦情は受け付けないからな」


かたくなに受け取りを拒否する波音に、強引に話を取り付けた海音。


昨夜、完成した絵を前にして、海音は波音に渡すことを決めていたのだ。


今まで、ずっと海の絵を描くときは海良を思っていたのに。


あの絵を描いているときは、波音のことしか考えていなかったと気付いた。


プールから聞こえる水音が、あの絵を創造させたんだと。


「……先生、強引ですね」


「なんとでも」


「じゃあ、あたしも強引にしちゃいますから」
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