人魚になんて、なれない
口を尖らせた波音は、わずかに頬を染めて早口で言った。


「来年も、あたしと海に来てください。それが……絵を受け取る条件です」


プールの底から水面を見上げるとき、必ず波音は波糸のことを考えていた。


波糸が最後に見たかもしれない光景を見たかったから、毎朝水の中から二重の空を見上げていたのだ。


でも、海音の絵を見てからは、海音のことしか考えていない。


波音は、その事実で自分の心を理解したのだ。


海を見つめたまま告げられたその言葉を、海音は条件付で了解した。


「来年の夏まで、お前の隣を空けておくこと。今は何も言えないけど、来年になればしがらみも消える。……言ってること、分かるよな?」


「……はい」


考えていることは、お互い一緒だったということだ。


「来年は……浜まで下りてみようか」
 

海音の言葉に、波音は大きくうなずいた。






あたしは、人魚にはなれない。


でもね、波糸。


海と同じくらい惹かれるものを、あたし、見つけたの。
< 53 / 53 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

そばにいたい
ルチア/著

総文字数/2,361

恋愛(その他)10ページ

表紙を見る
会いたい
ルチア/著

総文字数/2,375

恋愛(その他)10ページ

表紙を見る
始まりの青
ルチア/著

総文字数/10,973

恋愛(その他)24ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop