LOGICAL PURENESS―秀才は初恋を理論する―
「さらし者じゃないですか……」
深い水に潜るような感触だった。
頭を下にして、静かに、緩やかに落ちていく。
子どものころ、一度だけ家族旅行をした。
父が運転する車に乗って、母が昔から憧れていたという高原のペンションで、一週間ほど過ごした。
深い湖のそばだった。
両親は毎日、湖畔を散歩した。ぼくは湖に潜った。
宇宙飛行士の月面での作業を想定した訓練は、水中でおこなわれる。そう聞いたことがあった。
実際に水中の感覚を知って、妙に納得した。
重力の掛かり方が日常とは違って、浮力と水圧がぼくの行動を制限した。
大気がないから、音の伝わり方もまるで違った。
軽いのに、重たいような体。
目を閉じて思い描いたら、地球を遠く離れているかのようだった。
ひんやりとした暗闇に包まれて、心地よかった。
息が苦しくならないのなら、ずっとこの場所にいたい、と思った。