LOGICAL PURENESS―秀才は初恋を理論する―


丘の景色には音がなかった。


風が吹くのも、木の葉がそよぐのも、彼女が笑うのも、犬が息をするのも、すべてが無音だ。



ただ、ぼくたち四人がたてる音だけが聞こえる。


身じろぎをした、きぬずれの音。


理仁くんがくすぐったそうな目をして、つぶやいた言葉。



「姉貴の九歳か十歳のころ、だと思う。親父の仕事の関係で、フランスのいなかに住んでたんだ。

この犬、そのころ飼ってたやつ。けっこうデカいけど、まだ大人じゃなくてね。成犬と比べたら、やっぱ華奢な体つきしてるし、顔があどけないよ」



鈴蘭さんが、女の子と犬を見つめて目を細めた。



「ワンちゃんの名前、何ていうんですか?」


「キキ。ほら、めっちゃ嬉しそうな、嬉々とした顔してるから。姉貴はキキのこと、大好きだったらしい。

おれはこのころ、一歳か二歳だから、キキのことは全然覚えてねーや。住んでた場所の風景とかは、いくつか記憶にあるけど」


< 241 / 415 >

この作品をシェア

pagetop