LOGICAL PURENESS―秀才は初恋を理論する―
キキを覚えていない、という言葉に、ぼくは不吉な違和感を覚えた。
「長生きしなかったんですか? 大型犬って、十年くらいは生きるでしょう?」
理仁くんは、たわむれる一人と一頭を見つめている。
口元は、例によって、本物ではない形に笑っている。
「キキは、姉貴が十歳のときに死んだ。てか、殺された。だからたぶん、この思い出も、ここじゃ終わんないよ」
ピクリと、キキが耳を動かした。誰かに呼ばれたんだろうか。
キキは立ち上がって歩き出す。
どこに行くの、と彼女の口が動いた。
突然、ゴウッと音がした。
空間が裂けた音だ。青空の情景を突き破って、巨大な両手が現れた。
キキはそっちへ向かっている。
彼女はキキを追い掛けようとした。
素早く飛び出した煥くんが彼女の小さな体を引き留めた。
「何だ、あれは?」