LOGICAL PURENESS―秀才は初恋を理論する―
甘ったるい匂いがした。香水か何かの人工的な匂いだ。
一瞬ひどく濃くなった霧が、次の瞬間いきなり晴れた。
「え? リアさん?」
すぐそばに、リアさんが立っている。
リアさんはぼくを見て、小首をかしげて微笑んだ。
細い指が髪を掻き上げると、華奢なチェーンのピアスが揺れる。
春用の薄いトレンチコート。
黒いストッキングのすらりとした脚に、赤いハイヒール。
ありもしなかった踊り場で、ぼくはリアさんと向き合っている。
何とはなしに、リアさんの様子に違和感を覚えた。
違和感の原因には、すぐに気が付いた。
目元が少し赤い。仕草がいくらか大げさで、芝居がかっている。
「酔ってるんですか?」
リアさんが唇に手を添えて笑った。