生ぬるい海の中で生ぬるい君と生ぬるい物語を
君と
急いで彼女を近場の岩の上に寝かせる。
うっすらと目が開いた。意識はあるようだ。

大丈夫ですか、なんて決して大丈夫そうでない彼女に声をかける。

トドメだと彼女の頬に手を添えてみた。
きっと俺の手の冷たさで起きるだろう。


ヒヤリ


やっと目を覚ましたようだ。
そして目が合う。

深い焦げ茶色の瞳に、またもや惹かれる。


ど く ん


長い間陸にいるせいであろうか、脈が早くなった。そろそろ戻らなくては。

「今度は気をつけてくださいね。今日は暑いからと言って溺れるまで海にいちゃダメです。」

なんて、彼女の左手の傷を見ながら軽口を叩く。

自殺者の励まし方なんて、俺は知らない。


『あの…』
随分かすれた声が静かな海に響く。

お礼は要りません、などと次の返事を考えた俺の耳に
意外な言葉が滑り込んだ。

『お名前、教えてください。』
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