Four you ~2+2=4=2×2~
下村家において、杏樹は絵に描いたような「いい娘」だった。特に親に心配をかけないということに関しては、これまでの人生においては一度も起こさなかった、と自負していたほどだ。

だから、今回のことも、親には一切話さなかった。というよりはむしろ、経験がない分、親への説明の仕方を知らなかったのだ。何もない、少なくとも両親には、そういうことにしておきたい。だから、何度も殴られ、蹴られ、嫌がらせを受けることは分かっていても、学校に通わざるを得なかった。

…しかし、これも小説だ。ただ事態が悪化していく様を描くだけなら、そんなものはいらない。私はその物語に、救世主をもたらした。

「下村」

美月達の最初の犯行からしばらく経った夏の日、とある男子生徒が杏樹を呼び出した。

「校舎裏、来てもらっていいか?」

ここで断れば、無視をしたとしてやられることは分かっていた。公開処刑よりは、隠れて処刑される方がまだマシだ。そう考えた杏樹は、読んでいた本を閉じ、校舎裏に身体を運んだ。

「…ここなら大丈夫そうだな…」

その男子が連れてきたのは、校舎裏の、それも特に人目につかなさそうな場所だった。くしくもそこはいつも杏樹が暴力を受けている場所であった。逃げてしまおうかとも考えたが、相手は男子。周囲との接触が長らくなかったためどのクラスなのか、どの学年なのかすら知らなかったけれど、逃げきれないということだけは本能的に悟れた。

「なあ」

その男子生徒は、杏樹の目を見て話しかけた。

「…誰にやられたんだ?」

だが、その口から発せられたのは、いつも浴びせられていた罵詈雑言ではなかった。

「あの写真…偶然にしてはタイミングが良すぎる。お前が登校する時に屋上にいて、しかもあんなものがついてた。そんなの、宝くじが当たる確率より低い。…いかにも自分の意志でやってるみたいな写真と文言だったけど、誰かにやられたんだろ?」
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