Four you ～２＋２＝４＝２×２～

「相変わらず演技上手だよね、剣斗」

向こうの方から、女子生徒の声が近づいてきた。

「もしかしたら、俳優に向いてるんじゃない？」
「ちょっと遅いんじゃないか、美月」
「私の話無視？　…まぁいいけど」

その声の主は、杏樹も見覚えがあった。自分を見下ろして、いや、見下して笑っていた、その人物を…。

「…杏樹だっけ？　フン樹だっけ？」

美月の冷たい目は、杏樹の心が壊れそうなほどに杏樹を蔑視していた。取り巻きも同じような、侮蔑の念を込めた視線を杏樹に送っていた。

「まぁどっちでもいいけど…アンタはアタシらのサンドバッグなわけ。分かる？」
「…」
「アンタはアタシらのストレスを解消するためにここにいるの。最初からそう決まってたのよ。根暗で地味で何の発言もしてないアンタが、何かに貢献した？　してないでしょ？　だから、アンタは必要ない存在なの。サンドバッグ役以外にはね。…でもそろそろ、単純に殴るだけの活動には飽きてきたの。だから次の段階。ちょっと持ちあげておいて、あとから突き落とす。このやり方をやってみたけど…思いのほか面白いから、現場を見ておきたくなっちゃった」

美月とその取り巻き達は高らかに笑うと、杏樹に手を振り、踵を返した。

「そうだ、いいこと教えてあげる」

杏樹に背を向けたまま、美月が言った。

「さっき壁際に誘われた時、壁ドン期待したでしょ？　言っとくけど、一億パーセントあり得ないから。だって剣斗、アタシの彼氏だもん。ね～、剣斗」
「ああ」

杏樹の目からは光が完全に消え、そして透明な涙だけが、そこから漏れ出していた。