押しかけ社員になります!
部屋に帰った私は、時間をかけ、ゆっくり湯舟に浸かり、丁寧に身体を洗った。今日は入浴剤なんかも入れてある。これも私の準備の内よ。
はぁ、何時くらいに行ったらいいかな。
タイミングが悪ければ留守かも知れない。
何でも無い、連絡すれば良い事なんだけど。
ピンポン。
えー、誰?もう…、こんな時間に来る人なんて…居ない…ん、だから。…って。
ピンポン。
…もしかして。
バスタオルを身体に巻き付け、慌てて玄関に向かった。
部長。部長。頭は決め付けて疑わなかった。
ガチャガチャ、カチャ。
「部長!」
抱き着いた。
「おっ、西野…お前…。入れ。早く、中に戻れ…」
押し込められるように玄関に入れられた。
「はぁ…なんて格好で出て来るんだ。廊下に誰か居たらどうする。無防備も大概にしろ!」
「あ、だって…、部長だったから…」
「だって、だったからじゃない。それならそれで、外まで飛び出すな」
「だって部長だったから…。でも、何故うちに?今夜は私が部長の部屋に…」
「…電話も出ない、メールの返事も寄越さないからだ」
あ…もしかして、また…。やってしまったのね。部長を置き去りに急いで携帯を取りに行った。
「あ、西野。…上がるぞ」
やっぱり…。部長から沢山の着信、メール…。
こんな日だもの、手元に置いてもっと注意しておくべきだったのに…。
何事も綿密な部長の事だもの、今日大丈夫かどうか確認してくれる人なのに。脳天気な自分が嫌になってしまう。
「すみません。またです。入浴中でしたので…」
もう…、ホントに嫌だ。ごめんなさい。
「…そのようだな。休んでいたから、今日の事、不安に思っているんじゃないかと思ってな」
「あ、それは無いです。だって部長ですよ?駄目になったらその段階できちんと連絡をしてくれます。だから、会社が終わる時間になっても、何も無いという事はそのままでいいんだと思っていましたから」
…あ、なんて軽い言い方…。こんな配慮の無い女だったのかと、今更ながら嫌われてしまいそう…。あ。だけど…、この連絡が、駄目になったって事だったら?…。
信じている事と気配りが出来ていなかった事を同じにしてはいけない。はぁ…本当、馬鹿だな私…。自分の安心の為じゃない。部長の事を思えば、私から確認の連絡を入れておけば良かった事なのに。
浮かれた頭が馬鹿過ぎた。