押しかけ社員になります!
「少し、待っててくれるか?シャワーしてくるから」
「あ、はい…」
そう言って腰に腕を回し、私をリビングのソファーに座らせた。
…はぁぁ…何だか…緊張して来た。あ、…、頬に手を当て軽く唇を重ねられた。もうこんな事を…。はぁ…。こんな時…なんてダンディなのかしら。
はぁ…。とうとう部長の部屋に着いてしまった。私…緊張している。溜め息ばかり出てしまう。
車から降りる時、部長は小さめだがボストンバッグとトレンチコートを手にした。やはりどこかに出掛けていたのだ。それは間違いない。シャワーに行く時、洗濯物であろう物を取り出してもいた。
頭から熱いシャワーを浴びた。はぁ。もう…。西野のやつ…何だ。風呂上がりのあんな格好で目の前に現れたりして。俺がどれだけ鎮める為に苦労した事か…。知らないだろ?
化粧をすると言って居なくなった間に、店のマネージャーにメールで連絡を入れ、予約を入れて貰った。本来こんな事、俺はメールではしないのだが。そこは百戦錬磨のマネージャー。勘が働く。
【お気遣いは無用でございます。ご心配無く、承知しました】
返事を貰えた時にはホッとした。これがサービス業を熟す為の熟練のわざだな。顧客に多くを語らせない。触れなくて良い部分には極力踏み込まない。
通常は食事を提供するだけで良いのだが、顧客の要望に応えなければならない場合もある。
店でプロポーズをしたいからとか、無理を承知で色々と難題を持ち掛けられる事も多々あるだろう。直接、人相手の仕事は大変な商売だ。今日の俺を含め、我が儘な客が居るからな。
そんなこんなで一緒にご飯を食べる時間も使い、何とか理性を取り戻したんだ。
いくら衝動だとは言え、今日は大事な日だ。西野にとって、とても気にしていた日だ。
だからバスタオル姿の西野をあの場で押し倒す訳にはいかなかった。
風呂上がりの西野はいい香りがしていた…。はぁ。
罪な奴だよな、西野って奴は。