押しかけ社員になります!
仕事にならなかった。
いや、実際仕事はこなしていた。だけど落ち着かなかった。
苦楽を共にした、何もかも解り合った熟年夫婦が、いつものようにご飯を共にするのとは訳が違う。
緊張する。偶然でもない。約束して一緒にお昼を食べる。
…こんな日が来るなんて。
でも、待って?やっぱりどこかすっきりした気持ちでドキドキ出来ないのは、部長の気持ちが何も入ってないからよ。
お弁当を作る。一緒に食べる。
あるのはその実態だけ。
部長に何かしら、気持ちを言われた訳では無いんだ。
んん~。ん゙ん゙~。
「西野さん。あの…西野さん?」
「あ、は、い。はい。呼んだ?」
「はい。大丈夫かな、と思って。
あの…そんなに、こっぴどく、いかれました?部長に。西野さん中々めげない人だから…。
そんなに唸ってると、今回は余程、打ちのめされたのかと…」
余程、酷い有様だったのだろう。隣の綾子ちゃんが声を掛けてきたくらいだ。
「あ、ごめんね。違うの、何でも無いのよ。違う違う。
本当、何でも無いから。大丈夫、大丈夫」
「そうですか?あの、たまには愚痴ってみてはどうですか?
お昼に聞きますよ?」
チラッと部長に目をやりながら言う。
いや、とんでもない。誤解だ。問題は違う、それは言えない…だから困る。
それに、数時間後には、この流れから部長と並んでご飯なんかするのよ?
先に何かしら愚痴ったりしては、何事?って、訳が解らない事になりそうじゃない?
どうしよう…。大丈夫かな。
「大丈夫。いつもの事よ、大丈夫だからね」
「はい…西野さんがそう言うのであれば。でも、本当、話してスッキリしたい時は遠慮しないでくださいね?」
「有難う」
いい子ね、多分。しかし、…いつもの事で、本当に納得してくれたのだろうか。
信じて無い訳では無いけど…迂闊に愚痴ろうものなら、有ること無いこと、あっという間に拡散してしまうだろうから。
『ここだけの話よ』ほど怖いモノは無い。