押しかけ社員になります!

「西野!」

「はい」

「ちょっと…来い」

「…はい?」

…ん?何だか、溜めが入った呼び方だったような。


会議室【使用中】に換えた。

「今週行こうかと思う。どうだ?大丈夫そうか?」

あれから割と日が経っていて、半ばもう無理かと思っていた。お互いの部屋にも行けていない。週一のお弁当も辛うじてすれ違い寸前に渡せる程。
部長は元々忙しい。それを、更に居なくて良いようにしないといけないのだから、尚更に忙しい。

「行けるのですか?はい、私は大丈夫です」

それでも、約束通り、いつ言われてもいいように、私は私で粛々と仕事は進めていた。私ごときは一日居なくても誰も困らないけど。その点は部長とは大きく違うところだ。

「じゃあ、木曜の夜は俺の部屋に。金曜の昼頃から出掛ける」

「はい」

「これは日程表もどきだ。何も書いていない」

どういう類いのファイルと思えばいいのだろう。何も無い日程なんて。

「休暇の申請はすぐ出しておけよ」

「あ、はい」

「あぁ、海外では無いから。パスポートとか心配要らないぞ?」

…そりゃそうでしょ。今更、切れてましたなんて事になっても、バタバタと間に合いませんから。

「はい。あの、例えば服装が特別な格好でないと駄目とかはありませんよね?」

「ああ、普通の、旅行する楽な感じで大丈夫だ。…サバイバルなんてしない」

「ハハハ…」

サバイバル?…あまりに極端な例えが、逆にありそうで怖い…。むしろ、そんな事なら行かないけど?

「取り敢えずは、以上だ」

「はい。では先に戻ります」

「西野」

「はい?…、あっ」

部長に抱きしめられた。…こんな事、会社では決してしない人なのに。誰か、不意に呼びにでも来たら大変なのに。

「…はぁ。流石に連日疲れている。西野には会えないし…、後少しだから我慢しようと思ったが…二人になると無理だ。
はぁ、西野。職権濫用だな。…セクハラだ。パワハラもか…併せわざか」

部長のこの香り…。私も癒される。

「はい、ハラスメントですよ。では…」

長いのは駄目。それは解ってる…。

「…ゔん。つれないな…」

…それは。名残惜しくなって離れられなくなるから。…仕方ないんです。
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