押しかけ社員になります!
どこをどう走って辿り着いたのか…。
着いたところで起こされた。
「西野、着いたぞ。西野……西野…」
…いい声。もっと…聞きたい…。
「う、ん…。は、い。はい。え、はい。……え?
…うわ、ごめんなさい。…ずっと寝てたんですね。もう、着いたのですか?」
寝ていた私に時間の感覚は無いに等しい。
…、涎、垂らして無かったかな。…。
何だかまだ頭がついて来ない私の目の前には、コテージのような建物が。
別荘?のようにも見えるけど。
「ん?ああ、着いたよ。眠れたか?体は痛くないか?
さあ、降りようか」
「あ、はい」
……うわ~。…気持ちいい。深く息をしてみた。思いっきり伸びもした。アタタタ。……筋肉痛が。…いつの分だろう。…。部長を恨めしくちらっと見た。
「ん?」
「…何でもないです。気持ちいいなと思って」
「目覚めにはピッタリの空気だろ」
「……はい」
ここは、高台にあって…何とも言えない景色。緑の木立の向こうには海が見えていた。
「西野、取り敢えず部屋に荷物を置きに行って、チェックインを済ませよう」
「あ、はい!」
後ろについて歩いた。かなり離れたところにも、また似たようなコテージが僅かに見えた。
入口はどうやら真反対にあるのだろう。
「ここは誰にも会わない造りになってる。だから思う存分伸び伸び出来るぞ?余計な心配は要らないからな」
「はい」
なるほどね、そうなんだ。
部屋も広く、区切られていて…。凄く贅沢な造りだ。
「この部屋は?」
「ん?ここか?ここは食事を運んで来てくれて、置いておいてくれる部屋だ。
旅館のように部屋に入られて、あれこれと給仕されたりしないで済むんだ。
あれって、善し悪しだろ?俺達みたいなのにはこっちが良くないか?どんなタイミングでも邪魔が入らない。…ずっと二人だ」
話の最後の方には、すっと顔を寄せて、耳の下辺りに唇を触れさせていた。
…ぁ。思わず竦めるように首を傾げてしまった。早速、二人だけだから…甘いです。
「は、はい、いいですね。じ、時間は?」
「うん。こちらから伝えてあるから、希望の時間に食べられるんだ。今回は俺が相談無しに決めたけどな。
それに今日は天気がいい。夜は星が綺麗だぞ?
そこから先の庭はプライベートエリアだ。庭って言っても思っている以上に広いぞ。誰も入って来ないしな。明日も明後日もある。ゆっくり散策もしよう」
「はい。楽しみです。部長、有難うございます。こんな素敵なところに連れて来て頂いて」
きっと少しのサプライズのつもりで、私が寝ているように…着いたら驚くようにと。昨夜から疲れさせたのはわざとだったのかも知れない。
「フフ。部長?策士ですね」
「ん?何の事だ?」
ぽりぽりとこめかみを掻く。素敵です、部長。…流石、部長ですね。
はぁ、私はこうして休みを一緒に過ごせるだけでいいのに。
「ゆっくり休みましょうね?」
「ああ、それなりに」