押しかけ社員になります!

「では、お邪魔いたしました」

「あんまり無理するなよ」

「はいはい。吉城と喧嘩した時は遠慮無くいらっしゃい。私が匿ってあげるから」

「匿うって、…それだと、もう居場所がバレてるだろ?」

「吉城が謝るまで匿うって事よ」

「俺が全部悪いパターン?」

「そうよ。大体は男が悪いものよ。このくらいいいだろうとか、言葉が足りないのは駄目ね」

「…まあ、喧嘩しないし。…直ぐ謝るし」

「まあまあ。ね、和夏さん?」

「…はい」

「何だよ。二人だけで納得して」

「はいはい。遅くなるから、気をつけて帰りなさいね」

「ああ。また、なるべく来るようにするよ」

「まだまだ元気だから大丈夫よ。あまり来られると反対に寿命が縮まるわ。大丈夫だから。
自分のいい時期を大切にしなさい」

「お袋…」

「今から“中年”の青春ね。羨ましいこと、フフフ」

は?…何言ってんだか…。好きな人は居ないのかってそっちがヤイヤイ言ってたくせに…。

「じゃあ、もうここでいいから」

「お体、お気を付けて」

「気をつけて帰るのよ」

見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。



「平気か?大丈夫だったか?疲れただろ」

「大丈夫です。緊張はしましたけど」

「何だか俺は要らないみたいに言うから、一緒に居なくて…心配だったけど」

「とても気を遣って頂いて、流石に年長者の方は違います。何もかもお見通しというか、何も話さなくても、何でも解ってしまうんですね」

「随分、上手く話してるようだったけど」

「そうですね。とても話しやすい方ですね」

「お袋は…女の子、欲しかったみたいだったからな。きっと西野の事、自分の娘みたいに思ってるのさ」

「そうだとしたら、とても嬉しいです」

「西野…、今日は有難う」

「そんな…ご挨拶は当たり前です」

運転席から右手を取られて膝の上に乗せられた。ギュッと握られた。

「有難う」

「…部長?」

「西野で良かった。いや、西野がいいんだ」

「部長?」

「有難う」

「はい。あ、菊次郎って、随分和風な名前なんですね」

「ああ、しかも、女の子なのにだ」

「えー!菊ちゃん、男名前って自覚あるのかな…可哀相」

「そうか。次からは菊ちゃんて呼ぶか」

急に菊ちゃんって呼んで反応してくれるかしら…。
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