押しかけ社員になります!
「…反対でもいいの。部長が挨拶をしたいって言ってるから、とにかく一度会って。お願い。
…お願いします。お父さん…、お母さん」
初めてだ。正座をして頭を付けた。
「あ、和夏…頭を上げて…」
「一緒に来ます。土曜か日曜、時間を作ってください。お願いします」
「お父さん…、土曜日ならいいでしょ?ね?大丈夫よね?」
「和夏、いい話にはならない。それでもいいなら来なさい」
「…はい、有難うございます」
「何もう…。他人行儀な会話になっちゃって…。とにかく会ってみないと、人柄は解らないし。ね?
…和夏。どんな結婚だって、親は初めからいい顔をして承諾はしたくないモノなのよ?
簡単にお嫁さんに出来たと思わないのも、幸せのための一つなのよ?
女の子の親、特に父親はね、取られた気持ちになるの。娘には幸せになって欲しいと思うから…不幸になるかも知れないと思ったら反対はするし、そうじゃなくても、やっぱり反対するモノよ?
これ以上の話は二人で来た時にしましょう?
…ねえ?ご飯は?食べて帰らない?」
「うん、…ううん、やっぱり帰る。仕事、明日もあるし」
「そう?久し振りなのに…」
あれはあれ、これはこれなの?とてもじゃないけど、今の心境で仲良くご飯を食べるのは無理なのに。一緒に過ごしてもっと話をすれば、親の気持ちも少しは変化するのかも知れないけど。
この感覚が、私がまだ子供なのだろうか。一緒にご飯を食べて帰る事が、今は必要な大人対応なのだろうか。きっとそうだ。…久し振りなんだし。
幾つになっても家では甘えている。家族には気を遣わない、…いつまでもこんな対応をしていていいのだろうか。
「…じゃあ、帰るね」
玄関で靴を履いて振り向いた。
「ねえ?土曜は何時に来るの?」
「お昼からで都合は大丈夫?また来る前に連絡するけど」
「うちは何時でも大丈夫だから。ねえ和夏?相手の方は、名前は何て方なの?」
「あ、ごめん。あおやぎよしき、という人よ」
「そう。あおやぎさんね。遅いから気をつけて帰るのよ?」
「うん大丈夫、駅すぐそこだし。じゃあね」
「はい、おやすみ。お父さんとよく話しておくから」
「うん…、おやすみなさい」
「あ、ねえ、あちらの親御さんにはもう?」
「離婚してて…お母様にはお会いした」
「ご挨拶に行ったのね?」
「…うん。…お母さん…急な話でごめんなさい」
「……そういうモノよ。…親は急に聞かされるモノよ」
…お母さん。
「おい、もう、今日はいいだろ。玄関先で…長々と話すな…」
「あ、はいはい」
「…和夏、駅まで送る」
お父さん…。