押しかけ社員になります!

何も…会話は特に無い。駅まで10分とかからない。ただ黙って並んで歩くだけ。そう思っていた。

「和夏…。父さんも急な事で、今日は驚いた…。
お前が久し振りに…あんないい顔をして、お父さんって、帰って来たのにな。傷付けるつもりは無いんだ。…殆どが嫉妬だし心配からだ。
母さんの言う通りだ。…娘は特別だ。幾つになってもだ。
結婚は覚悟が要るものだ。男は特にな。和夏…、女の人も同じだ。好きだけでやっていくには脆いモノだ…、嫌いになってしまったら終わりだ…。そういうわけにもいかない。
好きだけではどうにもならない事に出くわす事があるんだ。結婚には責任も生じる。
最初に覚悟が出来ているかどうかで違うもんだ。決して甘いだけのモノではない…。と、…父さんは思っている。…男だから。
あおやぎさんと言ったな?」

「うん…」

「…大切にしてもらっているのか?」

「はい」

「…そうか。…そうか、…。はぁ、聞けば聞くほど、非の打ち所の無い人物のように思えるな…」

「…お父さん、あのね…」

「ん?おお、着いてしまったな」

あ。…。お父さん。

「言いたい事は来てくれた時に聞こう。あおやぎさんから聞いた方がいいだろう」

「お父さん…」

「まだ許した訳じゃ無いからな。…さあ、帰りなさい。着いたら電話するんだよ」

「はい。お父さん、有難う」

「だから…まだ許した訳じゃ無い…」

「解ってます、送ってくれたからよ。
おやすみなさい。土曜日、お願いします。…また来るね」

「ああ、おやすみ」


んん…まだまだ、どこか子供だ。それでも少しは大人になったか…。もう何があろうと、突き放してしまっても構わないくらいの大人の年齢だ。
親は娘には不幸とは無縁でいて欲しいと願うものなんだよ、和夏。
四十前まで結婚しなかったのは、仕事の忙しさだけだった訳ではあるまい…。そんな家柄なら、縁談話はひっきりなしの筈だ。そこそこの年齢で結婚していても、それが当たり前の事でもあった筈だ。
今まで独り身だったのは余程仕事が好きなのか、どこぞのお嬢様と結婚するという、そんな結婚が嫌だったのか…。


「お父さん」

「うぉ、母さん…、驚かすな…」

「ボーッとしてたから。帰ったの?」

「ああ、もう乗ってしまった」

「じゃあ帰りましょう?」

「ああ。なんだ…ずっと後を付けて来てたのか?」

「まあ、人聞きの悪い…。ついて来てたのよ」
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