押しかけ社員になります!
「ご馳走様。旨かったよ」
「あ、このままで大丈夫です。後は私が片づけます」
「そうか。すまん、有難う」
はぁ…、もう人の目も、どうでもいい。どんな気持ちで片づけても、内面はどうせ解らない。
話した内容はともかく、全ての行動は見られているのだから、何をどう誤魔化す事も出来ない。
でも、この状況、人に聞かれたらなんと言おう…。
「…部長?あの…」
珈琲を飲んでいた。
「ん?気になるか?」
「はい」
流石、人の心の中をよくご存知でいらっしゃる。
「弁当の事を聞かれたら、独り身の部長が食生活に不安があるから頼まれて作ってると言えばいい。
だが、多分だけど、面と向かって西野に聞いてくるやつは居ないと思うぞ?」
なにゆえ?何故そんな風に言い切れるの?根拠は?
「んー。みんな俺を敬遠しているからな。
部長という立場もだし、日頃の俺の鬼っぷりにもだ。
そんな俺に関わってる西野は気の毒に思われる。
だから、そっと触れずにおこうと思うかも知れない。
無理矢理のこじつけだし、甘い考えだが、とにかく何も問題は無い」
そんな…上手くいくのだろうか。そもそも、それが作る理由?
「あ…。部長の言動は仕事上の事じゃないですか。そんな事言ったら、指導だって…何も出来なくなります」
「西野…。そうだけどな。イメージだよ。
例え仕事上の叱責だとしても、恐い人だと思ったら、必要最低限の付き合いにしたいものだろ?距離も取りたいだろう。大抵の人とはそんなものだ」
「馴れ馴れしいと、親近感は違うとは思いますが。
…あ、…すみません。私が言えた義理ではありませんが。
それでも、ちゃんと部長を見れば、どんな人でどんなつもりで言っているのか解るはずです…」
「西野…、西野は…、まあ、過剰に異常だな。ハハハ。有り難いと言えば有り難い。…貴重な存在だな」
ぶ、部長…。…私の気持ちは、やっぱりおちゃらけてる程度だと思われているのかな…。そんなんじゃないですからね?
「あ、部長。今日はアイスは食べないのですか?」
照れ隠しだ。有り難い貴重な存在、その言葉は、こちらこそ有り難く頂かさせて貰いました。
あ、珈琲、もう飲んでるし…。要らないか。
「今日はいいかな。…充たされた」
何にだろ…。甘いモノは必要無いって事?
「おっと、西野、悪い。先に行くぞ。俺、午後一、会議があるんだ。
また来週辺りにでも弁当頼めるかな、西野が早の時に。
そうだな、取り敢えず週一って事にしようか。いいか?」
そう言って、肩をポンポンと叩いて行ってしまった。まだ返事してないのに。
返事は返さなくても決まってる。善くも悪くも断れない。
だって…大好きな『部長命令』だから。