押しかけ社員になります!
はぁ、もうどうしようかな…。
そもそも、こんなに遅くなると思わなかったし。
毎朝、天気予報はチェックしている。天気図まで好きで見ているくらいだ。
確かに夜遅くには雨になりますと言っていた。
そして、その通り、雨が降り出した。
はぁ、…だって、今日は一時間前には退社してる予定だったもの。
待ってみても止む雨では無い。それも知っている。
窓を雫が伝う。暗い空からの銀色の筋は途切れそうに無い。夜通し降り続くだろう。
はぁ。
休憩室の横の窓から眺めていた。
「おぅ、西野。まだ居たのか、帰んないのか?」
「あ、うん。今から帰るとこ」
「そうか。じゃあな、お疲れ。気をつけて帰れよ。
あ。雨降ってるぞ、滑ってコケんなよ?ハハハ」
キャーって滑った真似をされた。
「…何よ、もう。フン。大丈夫なんだから!
でも有難う、気をつけるね。お疲れ様」
「ハハハ。おぅ、お疲れ」
手に持った缶コーヒー。
加藤…。まだ仕事かぁ。やっぱり男の人は大変だ。
みんな、それなりに頑張っているのよね。
…フフ。会社の前のタイル貼り。履いている靴にもよるけど、濡れると思ってる以上に滑るのよね。
ついうっかりしてズカズカ大股で歩いてしまうと、ズルッてやっちゃうのよね。
加藤にはそんな場面で何度か出くわしていた。
覚えているんだ、ずっと。全く…、失態だわ。
恥ずかしいじゃない。
んー、走って帰ろうかな…。
コンビニで傘を買ってもいいけど、たどり着くまでに結局は濡れる訳だし。迷っていても雨は止まないし。
うん、帰ろう。
「西野」
え?…部長?
休憩室、中に居たんだ。…気が付かなかった。
いつ外から帰ってたんだろう。