押しかけ社員になります!

土曜日。
初めて二人揃って挨拶に来た時のように、私も一緒に実家を訪れた。

結局、部長とお父さん、また二人で話している。
私はお母さんに、部長が話す事を伝えた。
とにかく、話が終わるのを待つしかないわね、とお母さんは言った。


「では、…結婚する事は無いと言う事ですか」

「はい、現時点では、そういった形としては、ありません」

「…生涯無いのかね?」

「無いと言い切る事も出来ません」

…。

「そんな風に聞かされて…どう理解しろと…。男としては無責任ではないですか。
貴方のような立場の人と和夏では、んんん…やはり、難しい事だったんですよ、初めからね。
…つい最近の事です。
私達夫婦はこれから老いていく。和夏より先に死んでしまうのは当たり前の事で、だけど、あの子が幸せで、ああ、これで安心だ、と思えなければ、死ぬに死ねない。そう、家内と話したことでした。
親とはそういうものです。勿論、勝手な親心です。
古い考えなんでしょうが、結婚しないなど、有り得ないと思ってしまうのです、どうしても。
……しかし…よくよく考えてみたら、婚姻はまさに紙切れ一枚の事です。
その届け出を出す事で互いに責任も生まれる。心構えも出来る。ただ…んん…、出したからと言っても、別れる時は別れてしまう夫婦もいる…。
だから、婚姻というのも解らないものでもある…。
今までこんなに結婚というものを色々な角度から考えてみた事は無かった…。人生、一緒に居ようと決めたら、結婚は当たり前の、二人でのスタートのようなモノです」

「それはご夫婦が、結婚されて、良い関係でずっとこられたからでは無いでしょうか」

「良いかどうか…。苦労はさせていると思いますよ。
ずっと続けて来られたのは、何より家内のお陰だと正直思っています。
身勝手に仕事だけに向き合わせて貰えているのは、家内が家庭を守ってくれているからです。面と向かっては中々言えない話ですがね」

「私が言える事は、一生、娘さんと居るという事です。それしか言えませんが、これは破る事の無い約束です」

その言葉に、何の確証があるのだと言い返してみても…結婚も、婚姻届を出すというのも、結局は別れが無い訳では無い。
確証なんて無いに等しい事なんだ。

「青柳さん」

「はい」

「娘を頼めるかね。生涯、一緒に居てやってくれるかね」

あ…。

「はい。勿論です」

「…和夏の事、我が儘な娘ですが、どうぞ宜しくお願いします」

ぐっ。

「はい…こちらこそ、……宜しくお願いします」

二人で頭を下げ合った。
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