押しかけ社員になります!

「…部長」

「使った後だから濡れているが、傘が無いのなら、そこの傘立てにある俺の傘を使いなさい」

「部長…、あ、でも、それでは部長が」

「帰りは車だ。会社からならドアツードアだから濡れない。傘は無くても困らない」

あ、部長のお住まいはそういう環境なのね。

「でも…」

「別に必要無いならいい。あるから言っただけの事だ。好きにしたらいい」

違う、そうじゃない。

「いえ、有り難くお借りします。あの、返すのはどうしたら」

「いつでもいい。返してくれなくてもいい」

そんな…何だか部長、機嫌悪くないですか?

「では、またこの傘立てに戻しておいたらいいですか?」

「ん、それでいい」

…変。何だかやっぱりご機嫌斜めな感じがする。
仕事の相手先と何かあったのかしら。

「では、借りて帰ります。お疲れ様でした。お先に失礼します」

…。

「西野…。すまない」

え?

「仕事が終わっているなら送ってやれるんだが、まだ終われないんだ」

え?

「いえ、あの、そんな、滅相もない。大丈夫です。…そんな。私はこの傘をお借りできただけで、大丈夫です。それでは」

傘を掴み、引き抜き、何故だか逃げるようにエレベーターに向かった。

「西野!」

え?何?部長、変よ。

ドアが開いたまま丁度停まっていた。走り込んでボタンを連打した。
閉まって、早く早く。早く。ドアが閉まった。
早く、降りて…。
ガタンッ。…はぁ。私…何を逃げているの?
何?急に…。どうして?
送ってやれなくて?私を?
…ぇえ?
どうして、急にそんな事を部長が言うの?
…すまない、なんて。

遅くなってもいいです、待ってます、って言ったら、送ってくれたのだろうか。

チン。

「西野っ」

え?
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