押しかけ社員になります!

*おまけ 大変!『問題有り』です


失敗談を一つ。

部長の実家を離れる時、菊ちゃんにお別れしようと少し先に歩いていた私は、やらかしてしまったのです。

広い庭先で剪定をしているおじいさんが居た。
ロマンスグレーと言うんだっけ?
綺麗な銀髪のかくしゃくとしたおじいさんだった。

「おはようございます。ご苦労様です」

挨拶をした。業者の人だと思っていた。

「…おはよう。君が吉城の想い人かね?」

え?

「じいさん、大丈夫か?剪定なんかして。業者に頼んだ方がよく無いか?」

「おお、吉城。これはわしの道楽だ。すまなかったな、昨日は居なくて」

じいさん?吉城?
…。

「いや、この前だって居なかったじゃないか」

「ああ?あの時は早くから釣りだ」

「海だろ?クルーザーで出掛けるのも大概にしないと…遭難したら…大騒ぎになるんだから」

「は。まだまだしたい事はする。動ける内は色々やりたい事があるんだ」

「お袋に会長職を押し付けて…だろ?まあ、お袋の会長は名ばかりだけどな。叔父さんが居てくれるからいいけど」

あ、あー!…、この人、青柳茂吉!
確か、創業者の、青柳茂吉だ!つまり部長のお祖父様。
……あぁ…なんて軽い挨拶を…。
………透明人間になりたい。出来るものなら、今すぐ…消えてしまいたい…。

「西野和夏君と言ったかな」

「は、はい。あの、大変失礼な挨拶をしてしまい、申し訳ございませんでした。只今、猛省しております」

「ハハハッ。猛省?そんな事する必要は無い。気にする事では無い。ただの吉城の祖父さんだ」

もう…だから私は…。何故、こう…何一つ真面に出来ないのだろう。
部長の実家に来てから何かと醜態ばかり晒している。

「誠に申し訳ございません」

恥ずかしい。
こんな私でごめんなさい、部長。
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