押しかけ社員になります!
……あ。あーっ!
「部長…。…部長!」
部長の顔を見つめた。思い出した。
「…西野…壁は厚いとは言え、夜中だ。静かにしろ…。DVじゃ無いかと…誤解が生じる…どうした。やっぱり…」
「…。あ、いえ、すみません。でも、ていうか、思い出しました。あります。あるんです。私、持ってます」
「はぁあ?」
「あ、違います、違いますよ?
抜け目なく準備しておいて、持ってるくせに無いってみせかけて、安全日だとか言って、試した訳では無いですからね。違いますからね。これは、たまたまなんです、たまたま」
「たまたま?」
あー、もう、『たまたま』、なんて。そんな言葉に突っ込みは、今は返したりしないんですからね。
「あるって言うのは、貰ったんです、確か先月、キャンペーンとかで。忘れてました」
…使う事なんて無いから。そのままバッグの底に。
「商店街で配ってたんです。若い子に渡してるのを恥ずかしげもなく、その…受け取ってしまって、バッグに入れたままだった事、記憶しています。だからあります」
「…だからってなぁ。それって…そもそも、ヤバい代物だったらどうする?つける意味だって無くなるんだけど。俺が怖い」
未開封だとしてもだ、信じて使って、解らないように悪戯されてたら、まずい事になるだろ。
「大丈夫です。部長もよくご存知だと思われる有名メーカーのモノで、信用が出来る代物です。待ってください。取って来ますから」
シーツを巻き付けるとベッドから飛び下り、リビングへと向かった。
「あ、おい、待て…西野、こら走るな…はぁ」
…だから、ドタドタすると誤解されるだろ。
はぁ。正直、もう、俺だって収まりかけてるんだけどな…。これでその気にさせといて、やっぱり無かったってパターンじゃないのか。もう、気持ち的に無理だぞ?
「…部長」
ほら、…。無かったんだろ。…全く…西野という奴は。無くていいんだ。もう眠れるかも知れないから、このまま寝かせてくれ…。
「…なんだ?勘違いで、入って無かったのか?」
「…いいえ、ありました。それが…。
一つじゃなかった。こんなにありました」
う゛。西野の広げた掌の上には、連結された袋が乗っていた。
……。
「…西野…、寝る、か。…おやすみ」
……。
「…はい」