押しかけ社員になります!
記録更新

翌日。部長からの呼び出しの声は掛からなかった。
営業部的には平穏な日だった事になる。

部長は静かだった。当たり前だが、淡々と仕事を進めていた。
お昼前、スーツの上着を手に出て行くのを目で追った…。
どうやら今日は昼食を兼ねた商談のようだった。
上着を着ていない、ベストにネクタイ姿も、なんてスタイリッシュなんだろうと思った。…素敵。
男の人のスーツ姿は何故にどうして、こうもビシッとして格好いいのだろう。勿論、人それぞれ違うし、好みもある。…似合う似合わないも当然ある。戦闘服の要素もあるからなのだろうか。私はどうも男性のスーツ姿に弱い。
体型に合ってよく似合っている人は、それだけで目で追ってしまう程だ。
私も男だったら良かったのにと単純に思ってしまう。男性の体形でスーツを着てみたい。願望だ。だからと言って、格好良くキマルかどうかは解らないけど。
明日、金曜日なんだけどな…。
そうよ。何も連絡が無かったら予定通りだって事だ。前回同様、押しかけたらいいんだ。
別に駄目なら拒否されるだけの事。うん、行ってしまえ。そうしよう。

あ、そろそろお昼ね。
一緒にお昼を食べた次の日は、手持ち無沙汰な感じがした。木曜のお昼は何だか憂鬱な時間になった。
さてと…。

「お昼行こうか」

「はい、行きましょう」

ランチバッグを手に社食に向かった。


化粧室の前を通った。誰かと誰か……、特定は出来ない、数人がヒソヒソと話す声が漏れていた。

「…え、じゃあ部長は…」

「そうなの、私は知らなかった……らしいの……よね」

「私も、…おうかしら……て言ったら…」

「そう、…けど……らしいの」

途切れ途切れにしか聞き取れない。当たり前よね、聞かれたくないからヒソヒソ話しているのだろうから。肝心なところは全く聞こえて来なかった。何にせよ、いつもの噂話でしょ…。部長という部分が聞き取れたから、ちょっとだけ…、自分の名前が出たら…なんて、ドキドキ心配だったけど、それは無さそうだった。こんな場面には出くわしたく無いものだ。だから群れるのは嫌なのだ。
それに今は、得体の知れない会話に、今までになかった緊張を勝手に感じてしまう。
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