押しかけ社員になります!
いつものように人が少ない席を選んだ。
後ろから声がかかるのを待っていた。
一向に現れる気配がしない。どうしよう。私はもう食べ終わってしまう。戻る前には来るかな。デザートを食べたとしても、お昼休憩の時間はもう終わってしまう。
時間はもうそんなに無い。
…うん、今日は無理になったのかも知れない。いつも時間を合わせるというのは元々難しいだろう。だから、無理な日もあるだろう、部長だから。
お弁当箱をしまったランチバッグを腕に掛け、食べ終えたヨーグルトのカップにスプーン、湯呑みを持ち、ごみ箱と返却棚に向かおうと立ち上がった時、部長が現れた。
…部長。…。先にごみを捨てに行った。
「あ、西野、すまない、遅くなった。もう、食べてしまったか?弁当は?」
「…あります。いつものように席に」
座っていた辺りを指した。もしも、私が片付けをしている時に来たらと思い、置いておいた。
片付けが終わって、来て無かったら取りに行って持って帰るつもりだった。
「ああ、有難う。食べ終わった容器は俺が持って帰る。今日、寄るから」
「…はい」
それだけ話して、ランチバッグを持ち直し、離れた。返却棚に湯呑みを置いた。…はぁ。
何だか、いつもと違う意味で異空間に居るような気がした。
とにかく今夜部長が来る。何時頃だろうかとか、ご飯は?とか、聞く余裕は無かった。
足が浮いたようでしっかり歩けてない気がした。
何だか今夜、会うのが恐い。
部長が部長らしく、普通通りの態度で居るのに、さっきの会話が業務連絡のように聞こえて、悲しかった。
……それでいいんだ。ここは会社だ。社員の前だ。受け取る側、私の気持ちの問題なのにね。…勝手に不安になってる。
土曜日以来、ちゃんと聞く、大好きな声なのに。
ゆっくり顔さえ見れなかった。