押しかけ社員になります!

「読んだよ」

あ、もう読んでくれたんだ。

「…有り難う、ございます」

「…どういう事だ」

キタ…。キマシタ。不謹慎ですが…、久し振りに聞く、この冷たく突き放すような口調。
部長と私は会議室に居た。ここも久し振りだ。

「聞いてるのか?」

あ、回想してる場合じゃ無かった。

「あ、はい。聞いてます」

「それで、西野はどうしたいんだ」

…ですよね。こんな、今更言う事では無い事を言うなんて…。だったら初めから、好きだ好きだと、掻き乱すんじゃないって。

「俺が部長だから?いつかは取締役になるから?だから私でいいんでしょうか?…何だこれは」

パンッと手にしていたファイルをテーブルに置いた。

…。

「俺が部長なんて知らなかった訳でもあるまいし。何か?この先を考えたら、益々俺とは嫌になった、そういう事なのか。そういう事だな?」

部長…。珍しい。こんなに内容に触れて、会社で話をした事なんて無かった。いつも肝心な事には触れなかったのに。これは、急を要すると、判断してくれたのだろうか。

「西野…。西野は肩書きに惚れた訳じゃないだろ?俺と言う…青柳吉城という一人の男に惚れてくれたんだよな?」

「はい」

確かに。単純にそうです。真っ直ぐ部長を見ていた。

「それで確か、この先もずっと、俺以外好きになる奴はいないって言ったよな?」

「はい」

顔を見て、目を見ていた。

「だったら何だ。何を今更、こんな…怖じ気づく。無鉄砲に俺に向かって来ていたのは何だ?…俺をからかったのか?やはり戯れだったのか?」

「違います。断じて違います。最初からずっと真剣です」

「だったら…何も…心配する事なんか何も無い。…部長である俺が嫌なら、辞めてもいいぞ」
< 98 / 192 >

この作品をシェア

pagetop