好きって言ったら信じてくれる?


「でも、水野。」



真顔で呼ぶから何事かと思って聞いていると思いがけない“ことば”。



「可愛いものを可愛いと思うことを恥ずかしいって思う必要ないからね。」



今度は私がぽかんとする。先輩は、そんな私に構わず語り続ける。



「今、僕だからためらったんでしょ。こぶたの可愛さを語ること!」



「はぁ。」



「自分のキャラじゃないとか思わなくていいから。」



曖昧に頷くと、先輩は「だから、」とさらにまたひたすら“可愛い”を愛でることについて語り出した。




「あの、先輩、?」


「なに?」


「映画、始まっちゃいますよ?」



そう言うとやっと「ほんとだ、ごめん。」と言うなりスクリーンに向き直る。



私も、始まった映画をぼんやり見るけど、やっぱり集中できなくて。




今日は、一日空回りばっかりしてる気がする。



先輩がさらっと映画代を出してくれたことも、先輩が可愛いものが好きってことを知れたことも嬉しかった。




でも、先輩にとって私はあくまで“後輩”で、一緒に映画館で並んで座ってても先輩は私みたいに“ドキドキ”したり意識しちゃったりすることはないんだ、なんて改めて思い知る。



嫌になっちゃう。




私は、考えることを放棄して映画に意識を戻す。



気づけば、その映画の世界観にいつのまにかに入り込んでいた。



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