好きって言ったら信じてくれる?
ある日、コンピュータ室で一人で資料作りをしていたことがあった。
人の気配を感じて顔をあげるとドアの近くに水野が立っていた。
目が合うと、こちらまでやって来て控えめに尋ねてくる。
「あの、先輩少し聞きたいことがあるんですけど、今いいですか?」
「平気。どうした?」
「ここって…」とプリントを僕に見せて質問してきたので、僕は答えた。
「ありがとうございます。」
全部聞き終わったらしく、水野が笑ってお礼を言った。
前だったら、勢いよく頭を下げてたところかな。
「いえいえ。でも、明日でも良かったのに。僕のこと、結構探したんじゃないの?」
「あ、はい。どこにいるのか分からなくて。でも、別の先輩にまだ荷物あるから帰ってないって聞いたので。」
「そっか、わざわざありがとう。」
もう、帰っていいよ―というつもりで言ったけど水野は動く気配がない。
「あの、何か手伝います。」
あぁ。そのために。
多分、最初からそれが目的で僕を探してここまで来たのだ。
「ありがとう。今、資料作りしてるんだけどちょっと相談にのってくれたら嬉しい。でも、それだけだから大して仕事ないよ?」
「とりあえず、見てます。」
「緊張しちゃうな。パソコン使うの苦手なのに。」
そう言って笑うと資料作りを再開する。
しばらく見てた水野が口を開く。
「先輩、私が文字を打ちましょうか?」
僕は文字を打つのがとても遅い。
「いいの?お願い。」
とすぐさま席をたち水野と替わる。
水野はタイピングが驚くほど上手くて見とれるほどだった。
それから、大抵資料を作るときは僕が考えて水野が打ちこむようになった。
頬杖をつきながら僕の言葉を水野が次々と画面の中で形にしていくのを眺める。
なんでだろう。わからないけど、確かにその横顔に愛しさが込み上げてくる。
水野のことが好き。
ただ、そうはっきりと感じた。