好きって言ったら信じてくれる?



焦っていたのかもしれない。



体育祭が終わった。



だから、水野との関係もこのまま終わってしまうのではないかと。



最後の体育祭実行委員の集まりが終わって、すぐに水野に声をかけた。



「今、ちょっと時間ある?」



頷いた水野にほっとする。



「じゃあちょっといい?」



もう一度水野が頷いたのを見てから無言で歩き出す。


自販機まで来るとジュースを二つ買った。


水野に「はい」と1つ差し出して、近くのベンチに腰かける。


水野を受け取ったまま突っ立て動かない。


「座らないの?」


とベンチを叩いて見せる。


水野はやっと座ったと思ったら勢いよくこう言った。


「先輩、私、お金払います!」


「いや、これは僕の奢り。それは譲れないから。」


そう言い切ってにっこりと笑う。


「でも、」と、やっぱりというべきか水野は素直に奢られてはくれない。



「僕も先輩に奢ってもらったから。体育祭の仕事が全部終わったとき。」



「そうなんですか。」


と言いながらも水野はまだ「自分で払う」と言い出しそうだから、むり

「ちょっとした伝統?とにかく、お疲れ。」

と、ペットボトルを差し出すと水野もふっと笑ってボトルを合わせた。


「お疲れさまです。」


「なんだか、ペットボトルだと乾杯も決まらないね。」


「そうですね。それも伝統なんですか?」


「いや、別に。」


と答えてからふとイタズラ心が顔を出す。


「これから、伝統にしようか。水野も来年、後輩と乾杯してよ。」


「嫌ですよ。どんな顔して言えばいいんですか!」



確かに。ペットボトルを持って「乾杯!」と言ってる水野は想像できない。


そもそもペットボトルじゃなくても後輩に乾杯とか言うキャラじゃないし。




「そんなこと言いつつしてくれそうだよね、水野は。」


「そんなこと…、もう決めました。絶対しませんから!」


「そんなムキにならなくてもいいのに。」


からかうように言うと一気に顔が赤く染まった。


「ムキに何てなってないです!」



いや、なってる。



水野は素直すぎる。


そういうとこも全部愛おしい。



気がついたら口走っていた。




「そういうとこ、好きだけど。」


不可解とでも言いたげな顔をするから言い直す。


「だから、水野の…」



「分かりました。」


僕の言葉に被せるようにそう言うなり水野はすくっと立ち上がる。


何が分かったのだかわからないけど。



「そろそろ、行きます。ジュース、ありがとうございました。」


と言い残してあっという間に行ってしまった。



僕は一人残されて苦笑いする。


勢いで、告白するところだった、いやもうしたというのだろうか。



焦りすぎた、かな。



でも、これは拒否された…?


水野は、分かってて最後まで言わせてくれなかったのだろうか。


そう悩みながらも、少しだけ水野も僕のこと意識してくれているのではないかと期待してしまう自分もいた。





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