振り向いたらあなたが~マクレーン家の結婚~
こちらに来てから早2か月。マリアンヌはこちらの気候にも慣れ、曇りがかったてんきにも慣れてきた。というようりも、ロンドンでもほとんど同じものだった。
今日は、住んでいる城の修繕に取り掛かっていた。
城の修繕作業は、本来男性の仕事だった。
だが、あいにくこの家には高齢の父と同じくほとんど高齢に近い執事(兼従者)のボーマス、それにまだ少年のジョンがいるだけだ。父はそういう力仕事はやるたがらないタイプなので(父は学者肌で、書斎で書物を読んで、古代の遺物について研究しているのが好きなのだ)、残ったボーマスとジョンが修理をしていた。
しかし二人だけでは中々進まなかった。城は1400年から1500年の間に建てられ、既に300年以上経っているし、長い間使われていなかったので、中はほとんどボロボロだった。
おかげで廊下を歩く度に、身を切る寒さを感じる程の隙間風が壊れた所から入ってきた。
マリアンヌはこれから春が来て、夏になるので温かいうちに出来るだけ直し、やがて到来する恐ろしい寒さに備えておこうとした。
マリアンヌはボーマスに言われた通り、石を削ったり、形を整えたりした。そして石こうを作り、石を入れ、空いている所に埋めていったりした。
また、板を釘で打ち付け、隙間風が入ってこないようにした。壊れた窓枠を直したり、とにかくやる事がいっぱいあった。こんなので夏が終わるまでに、片付ける事ができるかしら?とマリアンヌは不安に思った。他の姉妹たちも時々手伝ったりしたが、すぐにそれぞれの気持ちが赴くままに楽しい作業に戻っていった。
マリアンヌはこの城にかなり愛着を感じていて、城に関われるこの作業を気に入っていた。
昔からマリアンヌは城に住むことに憧れていたので、この城がたとえかなり朽ち果てて、今にも崩れ落ちそうでもやはり愛していた。
それに修繕作業中は、思わぬ発見をすることもあるので、マリアンヌは城が新しい秘密を教えてくれたようでワクワクしていた。
この城はマリアンヌにとって、神秘的で、捉えようがなく、かわいい幽霊が出てくる屋敷のようなものであった。マリアンヌは一人、かなりワクワクして、この城で毎日過ごした。
マリアンヌが木の板と釘を持って歩いていると、向こうからジョンが走ってやってきた。
「先生。ボーマスさんからの伝言で、石をいくつか3階の廊下に持ってきてほしいとのことです。」マリアンヌはそれを聞くと、
「分かったわ。ボーマスにすぐ持っていくと伝えてくれる?」とジョンにお願いした。
ジョンは、「分かりました。」と言って、また元来たところを戻っていった。
マリアンヌは城を出て、鉄の門扉を開け、敷地外に出た。
そこは黄金色の草原で、風がビュービュー吹いていた。猫じゃらしが無数に生えていて、マリアンヌはその草原を歩いていた。
マリアンヌは今の暮らしに満足していて、心から充足感を感じていると思った。
マリアンヌは幸せな気持ちで石を拾いに行った。幸せだわ・・、私。彼がいなくなったのに・・。別れた時は、あんなに悲しかったのに。忙しすぎるから忘れられるのかも。
彼のことは今でも好きなのに、いなくても意外と寂しさを感じないので・・。マリアンヌは草原を歩いて行って、無造作に積み上げられている石の所まで来た。そして、大きい布に石を2個入れ、また元来た道を戻ろうとしました。
すると向こうから人の足音がしました。振り向くと、髪をボサボサにし、服に砂ぼこりを付けたコスナー氏がいました。
マリアンヌは心底びっくりして、悲鳴を上げそうになりました。持っていた布を落としたので、石が足元に転がり落ちていった。マリアンヌは両手を口に持っていき、びっくりして突っ立っていた。ケヴィンはマリアンヌの姿に気がつくと、マリアンヌの方へ息も絶え絶えに上ってきた。
「はあ、はあ、はあ。」コスナー氏は荒い息を吐き、両足の膝の上に手を置いて、しばらく息を整えていました。そしてマリアンヌの方を見ると、「ようやく見つけたよ。ミス・マクレーン。」と言った。
マリアンヌはびっくり仰天すると同時に、何故か分からず自然に涙があふれてきた。そして、コスナー氏の方へ駆け寄り、ヒシッと抱きしめた。
コスナー氏もマリアンヌを抱きしめ、マリアンヌの茶色の髪に手を差し込んで、無数のキスの雨を降らせた。
「ああ、ミス・マクレーン。君にどんなに会いたかったことか。傷づけてごめんよ。僕はとても後悔していた。」マリアンヌはコスナー氏をさらに強く抱きしめ、涙が出てきた。ようやく、落ち着いたので、顔を上げてコスナー氏の方を見た。
「ミスター・コスナー。あなたが来てくれるとは思わなかったわ。あなたは私の居場所を知らなかったはずですもの。でも、あなたに会えてとても嬉しい。でも、どうやって知ったの?」ケヴィンはニヤッと笑い、
「簡単じゃなかったさ。君がどこに行ったかちっともわからなかったんだ。でも、君の父上の知り合いを何とか頑張って見つけてね。そこから分かったんだ。」
「まあ、そうなの。私は、あなたに手紙を出したのに、ちっとも返事をくれなかったので、もう私には興味がないのだと思っていたわ。」
「何だって?!!」ケヴィンは驚いて、マリアンヌを掴んで見つめた。マリアンヌはまあと言う顔をして、
「私、あなたにお別れを言おうと思って、出発する前、訪問してもいいですかという手紙を書いたのよ。でも返事が来なかったわ。」ケヴィンは少し考えて、
「そうだったんだ。いや、僕は受け取っていない。受け取っていたら、ちゃんと返事を書いたさ。きっとどこかで手違いがあったんだ。」
「ええ、きっとそうよ。」そう言うと、マリアンヌは彼をじっくり見た。彼は長旅だったからか疲れて見えたし、服も汚れていた。大体こんな寒いところで突っ立っているなんてかわいそうだった。
「ミスター・コスナー。早く家に案内しましょう。ここは寒いわ。」そう言うと、ケヴィンを城へ連れていった。
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