振り向いたらあなたが~マクレーン家の結婚~
コスナー氏は、本を手に持ち歩いてタウンハウスまで戻った。タウンハウスは、メイフェア通りにあり、この辺りにある邸宅と同じで、古くからあるものだった。屋敷に戻ると、執事のロバートが出迎えてくれた。ロバートに外套と帽子とステッキを預け、自分の書斎に戻った。ケヴィンは、自分の椅子に座ると、タバコに火をつけ、煙をくもらせた。それから買ってきた本を眺めた。
マーガレット女史著『女性が幸せにあるために』だった。それを長いこと見つめていた。
それから、ケヴィンは、先ほど会った女性のことを考えた。マリアンヌ・マクレーン。
昨夜出会ったとき、心惹かれていた。昨晩、ケヴィンは、王宮で開かれていた王子誕生祭に嫌気がさして、あの場所にいた。あの場所には、誰もやってこないと思ったからだ。そこでしばらく、柱にもたれながら絵を見ていると、向こうからパタパタと足音がした。そちらの方を見ると、ドレス姿の女性がやってきていた。そして、壁に掛けられている歴代の王族についての絵画を眺めだした。
ケヴィンは、その女性を見てみた。その女性は背の高い女性で、髪は赤茶色で、巻き髪を頭のてっぺんまで巻き上げて、美しく着飾っていた。ドレスの色が白だったので、未婚の女性だということがすぐ分かった。
その女性が背が高いことに気が付いた。ケヴィンは、背の高い女性が好きだった。そして、顔は絵を眺めているので、後ろ姿だった。
その後ろ姿の綺麗なことと言ったら!しばらくその女性を眺めていると、女性がこちらを振り向いた。乳白色の肌に、茶色の目、愛らしく混じり気のない素直さのある瞳を見て、ケヴィンは、声を上げそうになるほど驚いた。そんな瞳は今まで一度も見たことがなかった。ケヴィンは、今まで散々悪意のある人達に囲まれて育ったので、周囲を穿った目で見る習慣がついてしまった。なので、彼の周りの人の目もどんよりとしていて濁っていた。だからそんな純粋な生まれたばかりの赤ん坊のような瞳をしている人には出会ったことがなかった。
あまりの美しさに声をかけることもできなく、二人で見つめあってしまった。すると、彼女の妹らしき人が現れて、彼女は去っていった。それから、ダンスパーティーで再び彼女を見つけ、先ほどの失礼さをわびた。
そして、今日は本屋でばったり出会った。
ケヴィンは、今まで、たくさんの女性と交際してきたし、絶世の美女と言われる国一番の美女とも遊んだことがある。それだけ女性付き合いには長けていたが、女性とはあくまで軽い戯れの対象で、楽しい時を提供してくれるだけの存在でしかなかった。それ以上のめんどくさい関係やシリアスな事柄には関わりたくなかった。ケヴィンは、この辺りでも高い身長を持ち、端正で甘い顔立ち、ブロンドの髪、薄いグレーの瞳を持っていて、ロンドン社交界にも度々顔を出すので、社交界の女性達にとても人気が高かった。その事実は本人も良く自覚していて、自身が20歳を過ぎ、社交界に出入りするやいな、その事実に早くも気づかされた。一度、年上の既婚女性と深い関係になったが、その事実を知らされた相手の女性の老いた老伯爵に癇癪を起させ、昏睡させてしまったことがある。それ以後、女性と深い関わり合いを避けるようにしていた。
ケヴィンは、マリアンヌに対して、どう接しようか迷っていた。彼女に惹かれているのは、間違いない。彼女と何の関係も持たないのも嫌だ。いつも通り軽く遊ぶだけにしようか。しかし彼の直感がそれは違うと訴えていた。彼女はそういう類の女性ではない。そういう事をすると、彼女はひどく傷つくだろうし、こちらも傷つく。それに彼女は未婚だ。中途半端な気持ちで手を出すのはやめよう。今はよく分からないが、とにかく今は彼女に会いたいという気持ちだけはある。今は、その気持ちだけだ。
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