その背中、抱きしめて 【上】
「今日は送ってくれなくても大丈夫だよ」
「いや、もう7時回ってるから。もう薄暗いし」
電車の中、降りる駅の少し前でまた高遠くんが私を家まで送ると言い出した。
「家にはちょっと遅くなるって連絡入れてあるから」
練習で疲れてるのに、家まで送ってもらったんじゃ申し訳ないよ。
私を送った後、また駅まで戻って電車に乗って…。
それより早く帰って体を休めてほしい。
「俺が心配なんです。最近、市内で通り魔事件があったじゃないですか。先輩、駅からバスじゃなくて歩いて帰るから暗くなってくると心配なんです。だから送らせてください」
遠慮がちに私の手を握る。
本当に心配してくれてるんだ、私のこと。
胸がきゅうってなった。