その背中、抱きしめて 【上】
「ただいまー」
玄関口で大きな声を出す。
「おかえりー」
お母さんが玄関まで出てきた。
そして門の外に高遠くんがいることに気付く。
高遠くんが会釈した。
「えと…、高遠くんが今日も送ってくれたの。遅くなって暗くなってきたからって。いいって言ったんだけど、暗くなってきて危ないからって」
「あらそう…。ごめんなさいね、練習で疲れてるのに。どうもありがとう。あ、そうだ。ちょっと待ってて」
そう言ってお母さんは家の中に戻って、少ししてまた出てきた。
「今、ちょうどコロッケ揚げてたの。お腹すいてるでしょ?よかったらこれ食べながら帰って」
キッチンペーパーに包まれたコロッケを高遠くんに差し出すお母さん。
「ありがとうございます。いただきます」
高遠くんは優しく笑ってコロッケを受け取った。
歩く高遠くんの背中をお母さんと見送った。
「少し前に、通り魔事件をニュースでやってたでしょ。だから暗がりは危ないからって今日も送ってくれたの」
「…ほんとに、今時の子には珍しいくらい出来た子ねぇ」
どうしてそこまでやってくれるんだろう。
優しくされ過ぎて、これでいいのか不安になるよ…。