その背中、抱きしめて 【上】
「ゆず先輩!水持ってきました!!」
「ありがと、麻衣ちゃん」
高遠くんの膝裏を持って、足をバケツの中に入れる。
相当な痛みがあるのか、脚は小刻みに震えていた。
「先輩、氷です」
「前田くん、ありがとう。助かる」
バケツの中に氷を入れる。
「監督、高遠くんの捻挫、結構重症です。すぐに病院に行った方がいいです。私、付き添います」
「緒方先生について行ってもらおうか」
部長の緒方先生。
申し訳ないけど、若い女の先生じゃ役不足。
しかもバレー経験もなければ応急処置もテーピングの仕方もわかんないような、名ばかりの顧問。
「いいえ、大丈夫です。タクシー呼んで行きます」
「わかった、頼むぞ」
そう言って、タクシー代と診察代にと監督からお金を預かった。
「緒方先生、保健室を開けてもらえませんか?松葉杖を借りたいんです」
「あ、うん。わかった」
緒方先生と小走りで職員室へ向かう。
先生にタクシー会社の電話番号を調べてもらって、保健室に向かいながらタクシーを呼んだ。
松葉杖と包帯、そして段ボール箱を持って体育館へ戻る途中、緒方先生が話しかけてくる。
「佐藤さん、すごく気が回るのね。短時間でこれだけ考えて適切に行動できるなんて、そうそうできることじゃないわ」
「怪我の痛みも心の痛みも経験してますから」
高遠くんは今、足も心も激痛が走ってる。