その背中、抱きしめて 【上】
体育教官室でカッターを借りる。
それから体育館へ入った。
ベンチに座る高遠くんは、顔をしかめていた。
でもそれは足の痛みだけじゃない。
しばらくコートに立てない心の痛みなんだ。
床に段ボール箱を置いて、カッターで15センチ幅に切っていく。
切り終わったところで高遠くんの足をバケツから出してタオルで拭いた。
救急バッグからアイスパック…瞬間冷却材を取り出す。
これは叩くと水が入った内袋が破れて、一緒に入ってる硝酸アンモニウムと化学反応を起こして冷却材が割れて瞬間的に冷たくなるインスタント氷のう。
叩いて冷たくしてすぐに高遠くんの足首に当てる。そして、ふくらはぎから足の裏まで切った段ボールを数枚当てて、添え木代わりにする。
重症の捻挫は、靭帯が伸びたり切れたりしてるから、足首がグラグラしちゃうんだ。
もちろん痛みで足を地面に着くことなんてできないけど、着かなくても足が揺れるとすごく痛いから固定する。
添え木代わりの段ボールとアイスパックごと包帯で膝からつま先までグルグル巻いた。
「よし、行こう高遠くん」
立つのに肩を貸して、松葉杖を渡して、私たちは体育館を出た。