その背中、抱きしめて 【上】



「先輩、パス練付き合ってください」


みんながウォーミングアップのパス練を終えてレシーブ練習に取り掛かったころ。

高遠くんから初めての申し出があった。


「でもその足じゃまだできないでしょ」

まだギプスの巻かれた足。

そんな足じゃ動けない。


「イスに座ったままやります」

そっか。

それならできるよね。


ボールを取りに行く。

(…あれ?ということは…)

私のボールコントロールが全てじゃないのか!?

イスに座ってるってことは動けないんだから、前後左右にズレないように高遠くんの頭の上にボールをパスしなくちゃいけない。


そりゃ中学時代、最初の最初にそういう練習もしたけどさ、でももう丸2年のブランクがあるんだもん。

思ったところにボールが行くかすっごい不安だ…。


「ちょっと練習させて。じゃないと役立たずな練習相手になりかねない」

「そんなことないでしょ。合宿の時、1人で壁当てやってたの見たけどブランク感じなかったですよ?」


いや、自分でやるのと動けない人相手じゃ全然違うから!




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