その背中、抱きしめて 【上】



パイプ椅子に座る高遠くんの頭上めがけて下からボールを山なりに投げる。

高遠くんの長い指がボールをとらえて、見惚れるほど柔らかなハンドリングで私にボールを返してくる。


”高遠くんの真上に”。

指先と高遠くんの頭上に意識を集中させてパスをする。

高遠くんがパスを返しやすいように。



今までで1番緊張するパス練習。



高遠くんのハンドリングはすごく柔らかくて、本当に綺麗。

女子より男子の方が手が大きい分ボールを包み込むことができるからハンドリングが上手なことが多いんだけど、私が知ってる中じゃトップクラスの柔らかさ。

バレーのセンスがある人は、何やってもケタ違いにすごいんだなぁ。


「なんか俺も感覚が変…」

パスをしながら高遠くんが呟いた。


「元のままだよ?」

私は率直な感想を言う。

相変わらず綺麗で柔らかいハンドリングだけど…。



「指先がボールに吸い付かない。ボールに”当たる”。ムカつく」


(あらら…少ーし不機嫌になってきたぞ)


高遠くんがボールを触っててイライラしてるの見るのは初めて、かな。

なんせバレーセンスの塊だからスランプもないし(私が見てきた中では)、今まで思い通りにやれてたんだと思う。


それが…。




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