その背中、抱きしめて 【上】
パスを続ければ続けるほど眉間にしわが寄っていく高遠くんの顔。
2週間ボールに触ってなかったとはいえ、傍から見れば全く変化はないのに、やっぱり自分では違和感があるんだろうね。
(こりゃ、このままやっても余計に焦らすだけかな)
「高遠くん、中1の4月を思い出してみようか」
綺麗な弧を描いて返ってきたボールを、私は両手の中に収めた。
怪訝そうな顔をしてる高遠くんに歩み寄って、高遠くんのおでこの15センチ上にボールを掲げる。
高遠くんが両手でボールを掴む。
オーバーハンドの手の形で。
「ちょっとだけいつもより肘が開いてるかなぁ。あ、そうそう。そのくらい。それがいつもの高遠くんのオーバーの形だよ」
高遠くんが掴んだボールを真上に手首のスナップでトスする。
落ちてきたボールをまた手首を反らせて指で包み込む。
それを何回か続けた。
さっき2人でパスをしていた時よりも手首はなめらかに、ボールが指に触れた時の音もほとんどなくなった。
「思い出した?」
少しずつ後ろ向きに歩いて高遠くんから遠ざかる。
5メートルほど離れたところで、高遠くんの指から離れたボールは私に向かって飛んできた。
高遠くんへ返す。
ボールが長い綺麗な指の間に収まった瞬間、柔らかい弧を描いて私の元に返ってくる。
それをもう一度高遠くんの頭上へ高く返すと、高遠くんの両手に収まったボールは私へ返ってくることはなかった。
「思い出した」
そのかわり、高遠くんの優しい笑顔が返ってきた。