その背中、抱きしめて 【上】
「先輩」
(あぁ、そんな笑顔で呼ばないで…)
左足を引きずるように、私の方に歩いてきた。
「何で泣いてるの?」
私の顔を見るなりギョッとしてる。
「何でもない…」
言えない。
こんな性格悪い考え、言えるわけがない!
顔を背けたその瞬間、上から頭を掴まれて高遠くんの方に向けられる。
(…!!!)
「何でもないわけないですよね。何もないなら泣く必要ない。どうしたんですか?」
私のバカ。
高遠くんに会う前に涙止めなよ。
嫌な気分にさせちゃうじゃん。
「…今日一緒に帰るのすっごい楽しみにしてたのに、高遠くんが松葉杖いらなくなったらもう一緒に登校したり高遠くん家まで送っていったりできなくなるんだと思っちゃって…」
高遠くん呆れ返っちゃうよね。
「高遠くんの足が治るのすごく嬉しいのに…自分のことばっかり考えちゃって…そんな自分が本当に嫌でっ…」
頭に置かれたままの手が髪の毛をくしゃくしゃにする。
「わっ…」
「先輩、そんなことで泣いてたんですか?」