その背中、抱きしめて 【上】




たまに…目がくらむほどの優越感に浸る時がある。

私だけが知ってる優しい笑顔。

その力強い腕に抱きしめられた時。

私だけの特権だと思ってしまう。

世界一幸せだと思ってしまう。


でも私の独りよがりなのかもしれない。

幸せなのは私だけなのかもしれない。



私の手を握る大きな手に力が入る。

見上げると、そこには優しい笑顔。

私だけが知ってる高遠くん。


「また泣いてる」

「な、泣いてないよっ。…きゃっ」

また髪の毛をくしゃくしゃにされる。


「何で先輩はそうやってネガティブに考えるんだろうね、普段明るいのに。…一緒に登下校するのが楽しみなのは自分だけだと思ってんの?」

(え…?)


「別に俺の足が治ったからって別々に登校しなきゃいけないわけじゃないじゃん。明日からも一緒に学校行こうよ」


それって…。






『一緒に登下校するのが楽しみなのは自分だけだと思ってんの?』






高遠くんも楽しみにしててくれたってこと?

これからも一緒に登校してくれるの?

一緒に帰ってくれるの?


「高遠くん…ありがと…」


溢れた涙を見られたくなくて、手を繋いでる手と反対の手で、高遠くんの腕にしがみついた。


また、髪をくしゃっとされた。



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