その背中、抱きしめて 【上】
「私の50メートルのタイム見た高遠くんの独り言なんだよ。それにわたしが反応しちゃったの」
数秒考え込んだ前田くんに肩を掴まれて、高遠くんに背中を向けさせられた。
「先輩、それ本気で言ってんですか?」
「え、本気も何もそれが事の成り行きだもん」
「なら先輩、相当鈍感ですよ。いいですか?翔はほんとに他人に興味ないんです。俺だって毎回自分から声をかけなきゃ、一緒に行動できないんですからね。あいつから声をかけてくるとかありえないんですよ」
まぁたしかにそれは見ててわかる気がするけど。
一匹狼気質なんだろうなとも思うし。
「それが、それがですよ。さっきも垂直跳びの時に声かけたでしょ?そんで今も、普通他人の記録紙覗きこまないでしょ?」
垂直跳びの時はただのアドバイスだしねぇ。
今だって私が走ってるの見て遅かったから、タイムどのくらいなのか見ただけじゃないのー?