その背中、抱きしめて 【上】



「柚香は何も言ってこなかったけど、うすうす別れちゃったのかなとは思ってたよ。でも柚香の様子を見てるとただの仲たがいとかそういうんじゃなくて、事情がある別れだったんだろうと思ったから何も言わずにそっとしといてみたの。そういう辛い経験も今後きっと糧になるはずだから。でも翔くんの話を聞いて、またお互いに少し大人になれたんじゃないかな。ね、お父さん」


お母さん…わかってたんだ。

わかってたのに、何も言わないでいてくれてたんだ。


胸がいっぱいになる。

こらえてた涙が、ついに落ちた。


「翔くんが怪我した時に迎えに行ったけれど、最初お母さんから柚香の彼氏だと聞いて実のところロクな奴じゃないんじゃないかと思ったんだよ。なんせ柚香はとてもじゃないけどしっかり者とは言えない子だから変な男にも引っかかりやすいんだろうと、親としては心配でね」


なんてこと…!

変な男に引っかかりやすいって…。


「でも実際に会った君はとても礼儀正しい好青年だった。そして柚香のことも大切にしてくれていることは話していて伝わってきたし、学生の本分もわきまえている。もちろん柚香が傷ついていたことは親としては切ないことだけれど、のほほんと生活してる柚香にとっては良い勉強の機会だった思うよ。翔くんの決意はよくわかった。これからも学生の本分を忘れないように2人とも高校生活を楽しみなさい」


”はい”と返事した高遠くんの表情は緊張しているようだけど、穏やかさもあった。

(ありがとうお父さん、お母さん)



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