その背中、抱きしめて 【上】
「カッコイイこと言ったって、柚香先輩の気持ちが変わるかもしれないじゃん」
「その時はしょうがな…」
「変わらないから!!!!!!!」
気付けば高遠くんの言葉を遮って大声を張り上げてた。
「高遠くんのこと好きなの、ずっとずっと変わらないから!だから私の気持ちが変わることも、私から離れることも絶対絶対ないから!!!」
「…ぷ」
清水くんが口に握りこぶしを当てて小さく吹き出した。
その瞬間。
「あははははははははははっ!柚香先輩、力説すぎ!!」
「へ…?」
目の前で何が起こってるのか…何で私笑われてるのか…。
高遠くんを見上げると、口に手のひらを当ててあっちの方を向いてる。
「えー?なになに!何で私笑われてるのーーー?」
何だか無性に恥ずかしくなって、顔が熱くて涙目になってくる。
「柚香先輩には敵わねぇや」
清水くんが”腹痛ぇ”ってお腹を押さえながら私の目の前に立つ。
「それでもやっぱすぐには諦めきんないから。でも今まで通り会ったら普通に接してください」
「う…うん」
”じゃ、帰るわ”って、清水くんは高遠くんの肩をポンっと叩いて背を向けた。
数歩進んで立ち止まる。
くるっと振り返って
「柚香先輩。春高のメダル持って帰ってくるから。そしたらまた会ってね」
何度も見た人懐っこい笑顔で。
「会わねぇよ!」
高遠くんが吠えると
「しょうがねぇからお前も一緒でいいよ。メダル見たいだろ」
「いらねぇし!」
清水くんは笑いながらまた歩き出して、私たちに背中を向けたまま右手を振った。