その背中、抱きしめて 【上】



学校が始まって部活もあって、どんどん時間が過ぎていって。

あっという間に2月に突入。

街はすっかりバレンタイン一色になった。


(バレンタインかぁ…高遠くんにどんなのあげたらいいんだろう。さくらちゃんに聞いてみようかな)


実は私、恥ずかしいことにお父さん以外にバレンタインのチョコをあげたことがない。

小学校の頃は男子なんてみんな遊び友達だったし、中学はバレー一筋だったし。

生まれて初めてのちゃんとしたバレンタインに、やたら緊張してきた。



昼休み。

「バレンタイン?」

さくらちゃんの前でノートを開く。

メモの準備万端。


「そうねぇ…かわいいチョコとかいっぱいあるから買ってもいいけど…。手作りするならチョコじゃなくてちょっと頑張ってケーキとかどう?」

「ケーキ!?…ちょっとそれはやりすぎじゃない??」

学校持ってくる間にぐしゃっと逝っちゃいそうだし…。

たとえ育ち盛りの高校男子だって一気に食べられないだろうし。

持って帰るのも大変だろうし。


「…ゆず、ホールケーキじゃないからね?」

頭の中、ぐるぐる目一杯考え事してる私を見て、さくらちゃんが呆れ顔。

「え、違うの?」

「違うに決まってるでしょ」

そう言って、さくらちゃんは私のおでこをペシっと叩く。

「いたっ。…だって頑張ってケーキって言うからてっきり…」

「そんなもん貰った方だって困るでしょうよ。カップケーキとかカットロールケーキとかだよ」


そっか…そうだよね。

(ビックリしたー。ホールケーキもらっても高遠くん困るよね)



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