その背中、抱きしめて 【上】
「そういうとこ…って」
「そういう、いちいち可愛い仕草するとこ」
顔が熱くなるのが分かる。
たまらなくなって、両手で顔を隠した。
高遠くんは前よりずっと甘くなった。
ニコニコなんてしないけど。
口数も多くなってないけど。
でも、すっごい優しく私を見る。
すっごい甘い声で囁く。
私がドキドキしすぎて耐えられないくらいに。
ご飯を食べる私の箸をさっきからずっと見てる高遠くん。
「どうしたの?箸の持ち方おかしい?」
「そうじゃない。先輩って箸も書くのも右だけど、バレーする時は左なんだよね。サーブもスパイクも」
そう言って私の左手に触れる。
「あ、それね。私、両利きなんだよ」
ちょっと得意げに。
「え?マジで」
高遠くんが目を丸くする。
「うん。ライトだから左で打ってたんだけど、右でもちゃんと打てるんだよ」
右手で小さくスパイクするように手を振り下ろしてみた。
まだ左手には高遠くんの右手が触れていて、ドキドキしてるまま。
「私は最初から両手で打てるけど、高遠くんは途中から左打ちに変えたんでしょ?それってほんとにすごいと思う。利き手じゃない手であれだけのスパイク打てるって、並大抵の努力じゃなかったはずだもん。ほんとに高遠くんはすごいよ」
「愛の力じゃん?」
頬杖をつきながら、そして私の手を触りながら、高遠くんは得意げに口角を上げた。