【短編】君を探して、哀を奏でる
「…。」
「どうかした、季音?」
「あのね、藍くん」
三つ年上の藍には常に敬語を使う季音の調子が崩れる。
「あれ、何でだろう。あのお店がグッチャグチャになって閉店してるんだけど、偶然だよね」
「…………偶然じゃない?」
「間があった!!今とっても間があった!!藍くん!」
「やった、季音がため口だ」
違うところで喜びつつ、藍も季音の視線の先を見た。
「藍くん、話してください」
「季音が敬語を止めてくれるならね」
「そんなので話すんですね…。分かりました。藍くんあれは偶然?」
「つい先日、閉店してもらった」
「具体的には?」
「某球団のサイン入りバットでシャッターを壊し、かつ侵入して修復不可能なほどに店内をボロボロにしてきた」
ドがつく真面目顔に季音も苦笑。
「貴方という人は…そんなことせずとも、私は気にしてませんよ」
「そんなの僕の気が済まない」
「じゃあせめて、クレーム入れる位にしてください」
「えっ、そんなの初期段階じゃないか」
「……。」
執行済みか、と難しい顔で季音はまた黙りこむ。
どうにも藍を止めることは出来ないらしい。
自分を想ってくれるのは嬉しいが、想いが強すぎて、他には理解され難いだろう。
高校時代に、痴漢に遭ったことは黙っておこう、と密かに心に決める。
さもなくば、どんな手を使ってでも犯人を探し出して来そうだ。
彼ならやりかねないし、出来るだろう。
「季音?今日はだんまりさんだね」
「藍くんのせいですよ」
「そう。でもどんな君でも愛しているから、大丈夫だよ」
どういう意味だ。
「考え事してたのですが、変な顔してたなら、そう言ってください」
「何を考えていたの?」
季音は、ちらりと藍を見上げた。
不安そうな顔が仔犬のようだ。
「貴方のことですよ」
「嬉しいな。僕と一緒にいるときも、僕のことを考えてくれるなんて」
藍はまた、無邪気に語る。