【短編】君を探して、哀を奏でる
「にしても、あの季音に水かけたオッサン。腹が立つから八つ裂きにしてこようと思うんだけど、どう思う?」
「どう思うって、そんな今日の夕飯の話するノリで怖いこと言わないで下さい!」
「だって季音の許可制にした方が良いかなって」
「常識による許可制度に従って下さい」
季音は腹式呼吸で盛大に息を吐き、藍の手を握った。
「貴方は私のことだけを」
「分かってる。でもねぇ、周りの奴等もグルかもしれない。あの時、季音は白のブラウスを着ていたから、下着を見たいと願う輩が多いはずだ」
「そんな人居ませんよ」
そう言うと、藍は整った顔を僅かにしかめて季音の頬を撫でる。
「居るよ、絶対。実際、僕だって見たい。見たいどころじゃなく、それをブラウス越しじゃなく生でも見たいし、ホックを─」
「往来で変態さを発揮しないっ」
ぺし、と手をはたき、叱咤。
「ごめんごめん。で、どこへ行く?」
「買い物は大方済ませましたし、これと言って行きたい所は無いですかね」
「そうか。じゃあもう部屋でゴロゴロしてようか。春休みだし」
何だか危ない香りがする誘いだが、頷いてしまう。
自分で自覚しているほどに、季音は、怠け者なのだった。