【短編】君を探して、哀を奏でる
**☆☆**


目を覚ますと、季音の横で藍が眠っていた。


結局、一人暮らしの藍の家で二人でお菓子作りをし、オーブンに最後のクッキー生地を入れたところで話しているうちに、寝てしまったのだった。


喉、渇いたな。口開けて寝てたのかな、恥ずかしい。


気持ち良さそうな寝顔の藍に、ふっと口許を弛める。

いつも何でもソツなくこなす藍だが、眠っているときは子供のようにあどけない。

最近よく眠れないんだ、と困ったように笑っていたことを思い出した。


「…藍くん」


名前を呼びたい衝動に駆られた。


「…ん、とき、ね…」


いつも危険思想まがいの冗談を話して、私を笑わせてくれる。

でも。そんな彼でも、色々あるんだろうと思う。


例えば、藍くんが家族の話をしないこととか。

『季音以外の人』には触れない、とか。


季音は愛しげに藍の髪を撫でる。

よく眠っている。


起こさないようにと、そろっとベッドを抜け出してキッチンへ向かった。




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